言葉は言葉以上の気持ちが伝わる。


言い切ってしまえばPKにテクニックも戦術もない。あるのは「運」だけだ。3人目のキッカーが蹴った今大会のオフィシャルボール「ジャブラニ」はネットを揺らすことなく、無情にもゴールのクロスバーを叩き、宙に舞った。これで勝者と敗者を決めるというトーナメントの非情で過酷なルール。ゲームは終わった。勝利したチームの歓喜の輪を抜け出し一人の選手が敗者へ駆け寄る。額を寄せて何か慰めの言葉をかけている。おそらく日本語ではないはずだ。しかし敗者はその言葉にうなずいた。何度もうなずいた。それは延長を含めた120分間、敵と味方ではあるが、共に同じピッチで戦い抜き、PK戦に至った者同士には通じる、意味はわからなくても気持ちが伝わる「言葉」がその夜、南アフリカプレトリアのピッチに存在した。
peace